Maison Benjamin Kuentz / メゾン・バンジャマン・クエンツ

「ウイスキーがフランス人の手によって生まれていたら?」
そんな問いに突き動かされるように、バンジャマン・クエンツは10年以上も前から、自身のウイスキーブランドをフランスで立ち上げたいと考えていました。

そして、ワインやスピリッツの業界で長年経験を積んだ後、2016年に彼は「メゾン・バンジャマン・クエンツ」をスタートさせます。

フランスには、実に多様で豊かなテロワール、緻密なブレンド技術、そして長い歴史の中で育まれてきた蒸留文化があります。言い換えれば、上質なウイスキーを生み出すために必要なすべてが、すでにこの国に揃っていたのです。
とはいえ、世界のウイスキー市場では、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、そして日本――いわゆる「5大ウイスキー」が、その地位を確立しています。「今のフランスに必要なことは、そこへ堂々と加わるための、ほんの少しの大胆さだけなのかもしれない」とバンジャマンは語ります。

当初、彼は蒸留所を購入するか、すでに存在する蒸留所と提携するかで悩んでいました。
しかし、フランス各地の蒸留所を巡り、生産者たちと触れ合うなかで、「これまでのウイスキーのイメージを刷新するものを生み出したい」―そんな想いが、彼の中で次第に強く芽生えていきます。各地で出会ったその土地ならではのテロワール、そして、蒸留所ごとに培われた技術と個性に触れるうちに、「彼らとともに、まるで一冊の小説を紡ぐようにウイスキーを創り上げていく」という独自のスタイルにたどり着きました。

バンジャマンは、自らを「ウイスキー・エディター(編集者)」と名乗ります。
それは、編集者が作家に「こんな物語を描いてほしい」と依頼し、ともに物語を綴っていくように、各地の蒸留所と対話を重ねながら、一つのウイスキーという作品をともに創り上げていくのです。

彼のウイスキー造りの出発点は「蒸留」ではなく、「レシピの執筆」から始まります。
紙の上に、彼の創作に求める香りや味わい、テクスチャー、余韻、そして、飲むシーンをできるだけ詳細に書き起こし、そのレシピをもとにパートナーである蒸留所と、理想のウイスキーを形にしていくのです。

そしてもう一つ、彼の創作に欠かせない重要な工程があります。それがウイスキーの「アッサンブラージュ(ブレンド)」です。
ウイスキーの世界には、エドガー・ブロンフマン(元シーグラムCEO)が残した有名な言葉があります。
「蒸留は科学だが、ブレンドは芸術である。」
バンジャマンにとっても、まさにこのアッサンブラージュこそが、味わいのバランスや滑らかさ、そしてウイスキーに込めた想いを表現するための最も重要な工程なのです。

意外にも、彼はこの技術を独学と実践の中で習得したといいます。
正直に言えば、バンジャマン自身は、蒸留自体はできないと言います。その役割は、蒸留技術に優れたパートナーたちに任せており、まさに、編集者と小説家のような関係なのです。

原材料の選定においても、バンジャマンはその土地を尊重し、環境に配慮したサステナブルな農業を重視しています。また、これまでウイスキーに馴染みのなかった人々や、若い世代にもウイスキーを楽しんでもらうことを目指しています。

フレンチウイスキーに新しい風を巻き起こした、「メゾン・バンジャマン・クエンツ」。
「ウイスキー × フランス料理」という革新的なペアリング提案とともに、瞬く間に注目を集めました。
現在では彼のウイスキーは、フランス国内のワインショップをはじめ、ミラズールやリッツ・パリ等の数多くのミシュラン星付きレストランや一流ホテルでも採用されています。
また、日本でも2024年にラ・メゾン・デュ・ショコラとタッグを組み、ウイスキーの熟成に使用したオーク樽でチョコレートを数週間熟成させた「アルシミー」というチョコレートを2回に渡り販売しており、チョコレートの世界でも知名度を上げています。

◆ (D'un) Verre Printanier / (ダン) ヴェール プランタニエ

生産地:フランス ロレーヌ
熟 成:5年〜7年
樽酒類:コニャックカスク、バーボンカスク
度 数:46%

「春にかたむけるグラス」と名付けられたこの作品は、自然界の新しいいのちが芽吹く春を連想させるような、華やかで瑞々しさを感じるウイスキーです。
バンジャマンの「新しいウイスキーを生み出したい」という願いが詰まった作品でもあります。

色調は光沢のあるライトイエロー。フレッシュな洋ナシやマルメロの果実感に、白い花の香りが爽やかに広がり、穀物とほんのりと蜂蜜のような甘みが漂います。口当たりは軽やかで、果実とモルトの甘みがうまく溶け込み、ハーブの爽やかさとスパイスのニュアンスが甘みを引き締めます。
アフターにはウッディーさとスパイシーさが残り、食欲をそそる印象。思わずグラスを傾けたくなる、リズム感のある味わいです。

バンジャマンのおすすめのペアリングは、新鮮な生ガキと合わせたアペリティフや、食後にシェーブルチーズやフルーツと共に楽しむこと。春の陽気や、気温が高くなる初夏にぴったりなウイスキーです。


◆ Fin de partie / ファン ドゥ パルティ

生産地:フランス ロレーヌ
熟 成:5年〜7年
樽酒類:コニャックカスク、新樽、バーボンカスク、オロロソシェリーカスク、ペドロ・ヒメネスシェリーカスク
度 数:46%

ファン ドゥ パルティは、「宴のおわり」という意味と「物語のクライマックス」という意味のふたつを掛け合わせた、バンジャマン流の言葉遊びが込められています。まさに、一日の終わりに気の置けない仲間たちと集まって、ゆったりとくつろぐ時間に味わうために造られたシングルモルト・ウィスキーです。仲間たちとの時間が名残惜しく、いつまでも会話が続いてしまう・・・そんなシーンにふさわしい、ゆったりと味わうエレガントなウィスキーです。

色調は透明感のあるライトゴールド。
軽くトーストされたようなウッディな香りや粉末カカオをまぶした焼きリンゴのような香りに、ドライフルーツのような酸味やスパイスのアクセントが香りに輪郭を与えています。口当たりはややオイリーでとろっと滑るようなテクスチャー。カスタードのような甘みに、カカオやコーヒーのビターさ、そして、ドライオレンジのような酸味が下支えをしています。アフターには、ブラックペッパーや、心地よいタンニンが引き締め、ほのかに残る甘みとほろ苦さが絶妙なバランスを奏でます。
バンジャマンのおすすめのペアリングは、イベリコ豚の生ハムやサラミの盛り合わせ、熟成したコンテチーズや洋梨のコンポート、あるいはビターなチョコレートなど。


◆Vegetal Musette / ヴェジェタル ミュゼット

生産地:フランス シャラント
熟 成:3年
樽酒類:コニャックカスク
度 数:45%

夏の日差しが降り注ぐ中、木陰に吹き抜ける涼しい風や枝葉の間からこぼれる木漏れ日のような爽やかさをイメージした作品です。
色調は、光沢のあるシャンパンゴールド。
香ばしいモルトの香りと酸味のある青リンゴや、シャキッと食感のある洋ナシにフレッシュなハーブを感じる爽やかな香り。
口当たりは滑らかでありながら軽やか。レモン、ライムとハーブの蜂蜜漬けのようなビターで清涼感のある甘みが広がり、ほんのりとグリーンペッパーの塩漬けのようなニュアンスがいいアクセント。じわじわと穀物や野菜を連想させるようなうまみが温かみを感じさせます。 最後まで優しく広がる甘みが心地よいウイスキーです。
バンジャマンのおすすめのペアリングは、グリーンオリーブのタプナードやヨーロッパウナギ燻製(ウナギの白焼きもおすすめ)、柑橘のマカロンなど。
また、ソーダとの相性もバッチリです。


◆Spicy Nouba / スパイシー ヌーバ

生産地:フランス シャラント
熟 成:3年
樽酒類:コニャックカスク、ベルモット カスク、ジンジャー ブランデー カスク
度 数:45%

ヌーバーとは、フランス語で、お祭り騒ぎのようにはしゃいだり、楽しく踊ることであり、バンジャマンは「情熱的なスパイスと、熟した果物の輪舞(ロンド)」と表すように、情熱的なラテンのリズムを持ちながら、熟した果実のように滑らかさのある作品です。
色調は、淡い小麦色。
フレッシュなモルトや、ジンジャーのピリッとするアクセントに加えて、オレンジのコンフィやバニラエッセンスなどの甘やかで陽気なテンションがあり、ほんのりとスモーキーさが漂います。
口当たりはやわらかく、スムーズな口通り。モルトの甘みやウッディーさが優しく広がり、パプリカのような甘みやターメリックなどのスパイシーさとジンジャーの温かさそして、ドライレーズンのような甘酸っぱさが広がります。余韻には、爽やかなほろ苦さが甘みを運んでくれます。
滑らかな口通りでありながら、複雑な味わいで、陽気な気持ちになれるウイスキーです。

ローズマリーやレモンを添えたソーダ割や、オールドファッションドのカクテルが、おすすめです。
食事のスタートと終わりの一杯に最適なウイスキーです。


◆Aveux Gourmands / アヴ グルマン

生産地:フランス シャラント
熟 成:3年
樽酒類:バーボンカスク、シャトー・ド・レイヌ・ヴィニョー のワインカスク(ソーテルヌ 1級シャトー)
度 数:45%

幼い頃に食べたキャラメルやキャンディのように、口の中でジューシーな甘さがとろけて、気づけばあっという間に消えてしまっていた――そんな贅沢なひとときを表現した作品。
「美食家の告白」と名付けられた通り、甘美で懐かしく、ちょっと背徳的なほどに美味しかった想い出を呼び起こすウイスキーです。

色調は、透明感のあるペールアンバー。
香りは、軽やかでありながら、蜂蜜や塩バターキャラメルのような甘みがふんわりと広がり、リンゴのような爽やかな酸味やヘーゼルナッツのような香ばしさを感じます。バナナやパイナップルを使ったキャラメルケーキを連想させるトロピカルな果実感と優しい甘さが加わり、繊細でありながらもリッチな風味。
味わいは、まさに塩バターキャラメルを舐めているかのような滑らかでコクのある甘みが口中に広がります。アーモンドやヘーゼルナッツなどのナッツのニュアンスが奥行きを与え、パイナップルのような果実の甘酸っぱさと蜂蜜のような芳醇な甘さが重なり合いながら、長く余韻へと続きます。
バンジャマンのおすすめのペアリングは、塩バターキャラメル、ナッツ入りのチョコレート、アプリコットの蜂蜜がけ、フロマージュ・ブランなど。
食事の休憩の時や、食後のデザートに最適なウイスキーです。


◆Un Fut a Part / アン フュ ア パール

生産地:フランス ブルターニュ
熟 成:3年
樽酒類:ブルゴーニュの赤いワインカスク、コニャックカスク
度 数:50%

唯一無二の香りを宿すある樽から始まる物語であり、自らの物語を飲み手にゆっくりと語りかけるように味覚の旅へ誘います。
ブルゴーニュ産の赤ワインカスクで4年熟成されたシングルモルト(50%)と、コニャックカスクで3年熟成されたそばウイスキー(50%)をブレンドした限定エディション。
いずれもフランチウイスキーのルーツともいえる存在と言います。

色調は、輝きのあるリッチゴールド。
ヘーゼルナッツのような芳ばしさや、そばの香りが漂います。加えて、焦がしバターのようなまろやかさや、ミントのような爽快さが食欲をそそります。
口当たりは滑らかで濃厚な甘みが白い花の繊細な風味とともに広がります。そば由来の風味が全体を包み込んでいきながら、マルメロのシロップ漬けや和梨ような果実感とスパイスのピリッとするアクセントにアーモンドのニュアンスが加わり、余韻まで甘みとほろ苦さが溶け合い、香り同様に食欲をそそるような余韻が続きます。